建築の本ではないですが建築の必読書としてよく取り上げられる本です。
著者は、昭和初期に外国から入ってきた家電等と日本家屋の齟齬をぼやいています。
欧米製品に完全に慣れてしまった現代の我々とは違った視点で語られていて、改めて日本文化の奥深さを感じます。
以下、特に面白かった点をメモしておきます。
・トイレ
一般に汚れというのは忌み嫌われるものですが、昔の日本のトイレ(厠)は適度に汚れが馴染み周囲の自然と一体化した姿で、人はそこで心を落ち着けていたそうです。
著者は、陶器のトイレは綺麗すぎると言っていますが、実際欧米のトイレは(ホテルなどは綺麗かもしれませんが)そんなに綺麗ではない様な気がします。要するに、陶器やタイルは汚れと馴染まないため厠と同じ様に汚れると「汚い」と感じるのでしょう。
・漆器
この本は概ね「陰」の良さについて書かれていますが、漆器は特に陰を利用していると言えます。外側の黒は艶やかに闇に溶け込み、熱いお吸い物を入れても持ちやすく、高級なものは内側に金の模様が入っているけれど、これは闇の中で見ると重く輝いて風情があるといいます。
これまで漆器について、なぜこんな色をしているのかなど考えたこともなかったのでこの話は目から鱗でした。当時の日本の夜は、低い日本家屋の中では月明かりも届かず大層暗かったのでしょう。ヨーロッパも同時期は蝋燭で夜を過ごした時代ですが、石造が多いせいか窓が大きかったり高い位置にあったのかもしれません。そうすると青白い月光が射してくるため、それに合う白い食器を使っていたのでしょうか。(あくまでも私のイメージですが…)
・懶惰の説
懶惰というのは、簡単に言えば「怠けること」だそうです。何もせず、齷齪働く世間を嘲笑うかのような物臭さが奥床しいという考え方です。
時代の流れが速い現代、特に世界が急速に変わってしまったコロナ禍おいて、みんなが「何かしなければいけない」と考えています。しかし、時には立ち止まり世間から離れてみるのもいいのかもしれません。私は身体が結構弱いので、体調を崩した時はこの考え方でゆっくり休むようにしています。そうすると回復も早く、その後のパフォーマンスも良くなるような気がしています。
・恋愛及び色情
現代では、小説、特に恋愛小説は文学の王道となっていますが、これは欧米から入ってきた文化であり、昔の日本の文学では男女の関係を描くのはふしだらなことと考えられていたようです。小説だけではなく、同じく詩を持つ音楽や絵画においてもそれは同じで、浮世絵は当時では風俗画とみなされていたといいます。
時代の流れとともに低俗とみなされていたメディアが昇華していくのは興味深いです。音楽においても、昔は演歌でないものは不良の曲とされていたし、上記の小説や浮世絵も今では高尚なものとなっています。そして現代ではゲームやYouTubeも仕事になる分野であり、私が小さい頃には予想できませんでした。
新しく出てきたものに対しては(特に歳を取ると)受容できなくなってくる様ですが、いつまでも柔軟に色んなものを吸収していきたいですね。
全体として、現代では当たり前になって省みなかった感覚が想起される本です。