梶井基次郎「檸檬」

31歳にしてこの世を去ってしまった梶井基次郎の短編集を読了した。

著者が闘病していたこともあり、主人公が療養していたり死んでしまう設定が多い。残り僅かな時間しか残されていない主人公たちの哀愁は、少なからず著者本人の感覚でもあったのだろう。夜の場面が多いが、これは著者の闇への好奇心や憧れではなかろうか。一般的に享楽として描かれる都市の賑わいや明かりを嫌い、死や闇の中に題材を得ていたのは、夜に熱が上がって眠れなくなることに加えて自分がそれに近しい存在だと認識していたのかもしれない。しかし、彼の作品が心地よい軽さを持っているのは、そのような闇に対する感情が、丸善でのいたずらや窓ののぞき見など、ちょっとした「悪さ」と等価に扱われているためである。力強く病に立ち向かっていくような元気の出る小説ではないが、現実に傷つきながらも小さなことに喜びを見出す穏やかさが垣間見える。このような特徴的な作風にもかかわらず、梶井さんの短編は結核の死者が多かった時代の作として一般化される点も興味深い。

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