電車通勤が増えて本を読む時間が増えたが、感想をまとめる時間がなかったので、最近読んだ本たちをいくつかまとめて振り返ってみようと思う。
下町ロケット/空飛ぶタイヤ 池井戸潤
どちらも、中小企業の社長が、大企業の仕業で窮地に立たされるという導入である。それは日本の社会体制を代表するかのような構図で、読んでいるこちらも大企業の理不尽に腹が立ってくる。しかし、その大企業の中にも問題意識を持つ社員がいて、登場人物たちの思惑が交錯する。最後にはとてもスカッとする結末が待っているので、仕事でストレスが溜まった時などに読んでみて欲しい。普通の人は泣き寝入りするような事態でも、自分ができる限り足掻いてみるという主人公を見ていると、私ももうちょっと頑張ってみようと思え流ようになる。
私は社会人になりたてで読んだため、ビジネスにおける理不尽さに共感できた。学生時代に読んでいたら、状況をここまでリアルに想像できなかったかもしれない。学生時代に読んだ方は、再読してみると新たな発見があると思う。
夜は短し歩けよ乙女 森見登美彦
大学のサークルの先輩だった男が、片想いしている後輩の女の子にお近づきになろうと悪戦苦闘するというのが物語の筋である。しかし、その恋路は色々なものに阻まれてなかなか上手くいかず、彼の存在は基本的に端に追いやられる。一方でちょっと変わった彼女は、各所でたくさんの人に可愛がられ、物語の中心となる。そして森見さんの独特の文体が、ちょっと変わった乙女の可愛さに磨きをかける。
彼は彼女を追いかけているため、二人が同じ体験をすることがままある。しかし面白いことに、それに対する感想が真逆と言っていいほど異なっている。おそらく、普通の頭では彼と同じような世界の見え方をするが、ちょっと変わり者で天然な彼女の目を通すと、途端にキラキラ、コロコロと楽しい煌びやかな世界へと変貌してしまうのだろう。
物事の感じ方によって、同じ出来事でも良いことにも悪いことにもなり得るということがよくわかる。
大人になると大抵の人ができなくなってしまうものだろうが、私も彼女のように、何に対しても純粋に楽しむ姿勢を忘れないようにしたい。
つるかめ助産院 小川糸
主人公の凝り固まった心が、南の島の生活で段々と解きほぐされていくのが心地よかった。それと一緒に、本著を読んでいる自分の心の中の蟠りやしこりなどもまた、つるかめ先生に癒されていくような感覚になった。
巻末で宮沢りえさんと小川糸さんが対談なさっていた。宮沢さんが、「この島は私にとっては実在する島」というようなことをおっしゃっていたが、本当にその通りだと思った。小川さんは、小説を書いただけでなく、人々の心に南の島を作ってしまうらしい。この島は、物理的には存在しない架空の島だが、物語を読み終えた頃には、読者の心の中に確かに存在するようになる。
落ち込んだり、悩むことがあったら、いつでも心の島に行って、つるかめ先生に話を聞いてもらえる気がする。本人たちも辛い過去を乗り越えた彼らがそこにいることで、私は一人ではないんだと勇気をもらえる。
本書は、読者の心の中にそんな拠り所を与えてくれる本である。