ルードヴィヒ美術館展

ドイツのルードヴィヒ夫妻のコレクションが日本に来ていた。個人のコレクションだからか、ドイツの作品ばかりというわけではなく、印象派の終わりから現代のポップアートまで、美術の変遷がよくわかる展示であった。ここでは個人的に気になった作品を紹介したい。

ドイツ・モダニズム

印象派からの脱却をめざし、表現主義(非自然主義的な描写によって、内面的な感情表出や主観的な意識過程を外的な世界観の歪みによって強調するような芸術の傾向)が起こった。しかし当時のドイツはナチス政権のもと、これらの近代美術は「退廃芸術」として多くの作品が接収されてしまった。エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナーは表現主義の前衛運動グループの一つである「ブリュッケ(橋)」を代表する画家である。彼の「ロシア人の女」は、アフリカやオセアニアの芸術から影響を受けた、人々を鋭角に引き延ばして描く画風で人気を集めた。「青騎士」という表現主義グループにはワシリー・カンディンスキーがいる。「白いストローク」のような抽象作品は、シェーンベルクの音楽に影響を受けているという。また、バウハウスにて教鞭を取っていたことから、建築分野にも通ずるところがある。

マックス・ベックマンの「恋人たち」では、娼婦と男の売り物の愛が、奥から覗く人影と我々鑑賞者の視線に挟まれる。構図が絵画の外にまで拡張している点で興味深い作品である。

ロシア・アヴァンギャルド

1890年代から1930年代にかけて興隆したロシアにおける一連の前衛芸術運動および運動を担った芸術家を指すらしい。

「レイヨニスムによるソーセージと鯖」はキュビズムをさらに細分化したような構成で、どこがソーセージでどこが鯖だかぱっと見ではわからなくなっている。

カジミール・マレーヴィチは絶対的な抽象を志向するスプレマティズムを提唱し、無対象の抽象画である「スプレムス」シリーズを製作した。(本展では38番が展示されている。)

ピカソとその周辺

ピカソの「マンドリン、果物鉢、大理石の腕」は、伝統的な静物画をキュビズムの手法で描いた作品。女性を多く描いている印象が強いピカソの静物画という点が興味深い。

「アーティチョークを持つ女」は戦争の悲惨さを女性像に投影した作品で、「ゲルニカ」と同じ年に描かれたという。こちらもまた印象的な作品である。

マン・レイが用いた写真の表現手法であるレイヨグラフは、カメラを使わず、印画紙の上に直接物体を置き、光を当てることで物体の形を焼き付ける方法である。彼はニューヨーク・ダダやシュルレアリスムの活動にも関係している。

ポップアートと日常のリアリティ

世界大戦が終わると、美術の中心はヨーロッパからアメリカに移行していった。商品広告を使用したポップアートが生まれ、大量消費社会に対する反動から、ミニマリズムが起こった。有名なアンディ・ウォーホルの「ホワイト・ブリロ・ボックス」の他にも、ジェームス・ローゼンクイストは広告の一部分のみクローズアップする操作で広告の無意味化を表現し、ヴォルフ・フォステルはコカ・コーラの広告を「デコラージュ」し、イメージの(破壊ではなく)新たな再構成を行なった。

まとめ

ルードヴィヒ美術館には、反戦というよりは、戦争というものに対する悲しさ、諦観のようなものを表現した作品が多い気がする。コレクションがルードヴィヒ夫妻の視点を物語っているのだろう。

夫妻は、公共の美術館が「公共」であるために買えないような作品を買っているという。数々の出来事により失われてしまう作品が多い中、コレクション蒐集という本人の趣味の領域を超えて、価値のある作品を保存するという社会貢献的な姿勢が素敵だと思った。

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